【要約】政策金利の引き上げ局面では住宅ローン金利への影響が気になりますが、固定・変動の判断は金利予測ではなく、教育費や定年など将来のライフイベントと家計の余力で決めることが重要です。本記事では、新規借入時の考え方と、変動金利を選ぶ際の住宅選び・ローン設計のポイントを整理します。
日銀による政策金利引き上げ
2025年12月19日に開かれた金融政策決定会合において、政策金利が0.25%引き上げられ、0.75%となることが発表されました。
金利の引き上げは、過度なインフレによる物価上昇を抑える効果が期待される一方で、住宅ローン金利の上昇につながる可能性もあるため、一般家庭にとっても無視できない関心事といえます。
本記事では「金利上昇局面における住宅ローンへの影響」を、立場別に整理します。
- これから住宅を購入し、新規で住宅ローンを借りる方
- すでに住宅ローンを返済している方
それぞれの立場を2回に分けて、分かりやすく解説していきます。
新規で住宅ローンを借りる方の場合
近年の政策金利の引き上げに伴い、変動金利型住宅ローンの金利は今後も上昇する可能性が意識される局面にあります。
一方で、短期金利だけでなく長期金利も同時に上昇しており、
2025年12月19日には、長期金利の指標となる新発10年国債利回りが2%を超える水準となりました。
これを受けて、全期間固定型の代表的な住宅ローンである フラット35 においても、新規借入金利が2%を超える水準が視野に入ってきています。
長期固定金利は、将来の短期金利の変動をあらかじめ織り込んだうえで設定されるため、「これから金利が上がりそうだから」という理由だけで固定金利を選ぶことは、必ずしも正しい判断とは言えません。
金利の動向だけを理由に固定・変動を選択してしまうと、かえって各家庭の状況に合わない住宅ローンを選んでしまう可能性があります。
それでは、何を基準に金利プランを選ぶべきか
金利が上昇している局面であっても、住宅ローン選択の基本的な考え方は変わりません。
重要なのは、
「今後金利がどう動くか」ではなく、
それぞれの家庭において、大きな支出や収入の変化がいつ訪れるのかという点です。
具体的には、次のような要素です。
- 家族構成
- お子様の進学時期(特に大学進学)
- ご自身の定年退職の時期
といったライフイベントのタイミングによって、適した金利プランは大きく変わります。
固定金利が合いやすい典型的なケース
- お子様がすでに中学生以上で、大学進学を希望している
- 近い将来、家計支出が大きく膨らむことが分かっている
このような場合は、
金利変動による家計への影響を遮断できる固定金利を選ぶことで、将来の資金計画を立てやすくなり、金利の損得よりも、将来の家計の安定を優先したい場合に向いている選択です。
変動金利が合いやすい典型的なケース
- お子様がまだ小さく、本格的な教育資金が必要になるのは先
- 子育てが一段落し、生活費に一定の余裕がある
- 金利が上昇しても、家計がすぐに苦しくならない余力がある
このような場合は、
変動金利の低金利メリットを活かしつつ、将来に備える余地を確保するという考え方が成り立ちます。
ただし、金利上昇に備えた貯蓄や家計管理が前提となります。
金利選択において最も大切なこと
実際に、
- 自分がどのケースに当てはまるのか
- 教育資金や老後資金はいくら必要なのか
といった点は、ご自身だけで判断するのはとても難しいものです。
そのため、住宅購入という大きなライフイベントの際には、家計診断を行い、将来のライフイベントも含めたうえで金利プランを選択することが重要になります。
ここまでの整理
住宅ローンの金利選択においては、
- 目先の金利水準
- トータルの利払い額
だけに惑わされるのではなく、家計全体と将来のライフイベントを踏まえた総合的な判断が欠かせません。
金利上昇局面であっても、「どの金利プランが自分の家庭に合っているのか」という視点で考えることが、後悔しない住宅ローン選びにつながります。
変動金利を選択する際に必要な住宅選びのポイント
金利上昇局面での考え方は「3ステップ」で整理できます
- 無理のない住宅を選ぶ(返済能力の把握)
- 借入期間で余力を作る(月額返済を抑える)
- 余剰資金で備える(金利上昇・不測の出費対策)
変動金利型住宅ローンは、一般的な銀行では 毎年4月と10月に金利の見直しが行われます。
ただし、同時に 「5年ルール」 と呼ばれる仕組みがあり、金利が変動しても 5年間は毎月の返済額が変わらない のが一般的です。
そのため、途中で金利が上昇した場合でも返済額自体は据え置かれますが、その内訳は変化し、元本返済部分が減り、利払い部分が増える という現象が起こります。
理論上は、毎月の返済額のほぼすべてが利息に充当される状態になる可能性もあります。
また、金利上昇によって予定していた元本返済が進まなかった場合、5年ごとに行われる返済額の見直し時には、毎月の返済額が増えることになります。
ただしこの場合も、返済額の増加は 直前の返済額の125%まで に制限されるのが一般的です。
これらのルールは急激な返済額上昇を抑える一方で、金利上昇が続くと元本が減りにくい状態が長引く可能性があります。さらに、ケースによっては利息が毎月の返済額を上回り、未払い利息が生じることもあります。
もっとも、現状のような緩やかな金利上昇局面では、このような事態が直ちに起こる可能性は低いと考えられます。
金利上昇局面での住宅選び・ローン設計の考え方
STEP① 無理のない住宅を選ぶ(返済能力の把握)
金利が上がっても無理なく支払い続けられる住宅を選ぶことが最優先です。 借入期間50年やペアローンが一般化する中で、返済能力以上の借入が可能になっている点には注意が必要です。
変動金利を選択するうえで最も重要なのは、
金利が上がっても無理なく支払い続けられる住宅を選ぶことです。
近年では、
- 借入期間50年などの超長期住宅ローン
- 夫婦連帯債務やペアローンの一般化
により、実際の返済能力以上の借入が可能になっています。
目先の返済額の低さだけを基準に、背丈に合わない住宅を購入してしまうと、
- 想定外の出費が重なった場合
- 予想以上に金利が上昇した場合
に、家計が一気に苦しくなるケースも少なくありません。
住宅購入前にしっかりと ライフプランニング(家計診断) を行うことで、
- 教育費や老後資金といった予測可能な支出への備え
- 不測の出費が発生した際の対応余力
を確保したうえで、無理のない住宅選びが可能になります。
その結果として、
- 新築住宅か中古住宅か
- 注文住宅か建売住宅か
といった 住宅そのものの選択 を、現実的な視点で行うことが重要です。
STEP② 借入期間で家計の余力を作る
借入期間を長めに設定することで毎月返済額を抑え、余剰資金を確保する考え方は、 金利上昇局面において有効な選択肢の一つです。
この考え方を踏まえたうえで、借入期間をどう設定するかを具体的に見ていきましょう。
「借入期間を長くすると、支払う利息の総額が増えるのでは?」
と考える方も多いと思います。
確かに、利息の総額だけを見ればその通りです。
しかし重要なのは、
まず 無理のない返済額を基準に借入を考えること です。
そのうえで借入期間を長く設定することで、
- 毎月の返済額をさらに抑えることができる
- 家計に余裕(余剰資金)を残すことができる
という効果があります。
余剰資金を確保することの意味
返済額を抑えることで生まれた余剰資金を、
- 貯蓄
- 積立投資
- 生活防衛資金
として確保しておくことで、
- 将来発生しうるイレギュラーな出費
- 想定を上回る金利上昇
があった場合でも、柔軟に対応できる家計を作ることができます。
この「対応できる余力」を持つことが、金利上昇耐性を高める最大のポイントです。
金利上昇局面ならではの補足
金利上昇局面では、預金金利や運用利回りの上昇も期待できるため、余剰資金を適切に管理・運用することで、
住宅ローン金利の上昇分を一部相殺できる可能性もあります。
もちろん、運用にはリスクがあります。
しかし、個人向け国債やローリスクタイプの投資信託などを活用することで、一定の換金性と安全性を確保した運用を行うことも可能です。
すべてを繰り上げ返済に回すのではなく、
選択肢として余剰資金を手元に残しておくという考え方は、
金利上昇局面において特に有効といえます。
そして最終的に、子育てが一段落するなど家計に余裕が生まれたタイミングで、蓄えてきた余剰資金を元手に繰り上げ返済を行うという選択も可能です。
STEP③ その他の余剰資金確保策
団体信用生命保険・住宅ローン減税を活用した家計の余力づくり
① 団信加入をきっかけとした保険の見直し
団体信用生命保険により、万一の際は住宅ローン残高が完済されます。
これを踏まえて既存の生命保険を見直すことで、保険料という固定費を圧縮し、家計の余力を確保することが可能です。
住宅ローンを利用する際には、ほぼすべての金融機関で
団体信用生命保険(団信)への加入が義務付けられています。
団信に加入することで、住宅ローンの債務者に万が一の事態が発生した場合、残っている住宅ローンは保険によって完済されます。
その結果、遺族にとっては
将来にわたる住宅費の負担が大きく軽減されることになります。
このため、住宅ローン契約時は、すでに加入している生命保険について
保障内容や保険金額を見直す良いタイミングでもあります。
保険料の負担を適正化できれば、その分を貯蓄や将来への備えに回すことができ、
金利上昇局面における家計の余力確保につながります。
② 住宅ローン減税の活用
住宅ローン減税を活用することで、借入初期の返済負担を軽減できます。
特に元本残高が大きい当初期間においては、家計のキャッシュフローを安定させる効果があります。
住宅ローン返済においては、
元本残高が大きい当初の期間を無理なく乗り切ることが非常に重要です。
対象となる住宅を住宅ローンを利用して購入した場合、
住宅ローン減税により、
- 新築住宅:原則13年間
- 中古住宅:原則10年間
年末時点の住宅ローン残高の 0.7%相当の税額控除を受けることができます。
この制度は、当初の返済負担を軽減する効果があるため、
金利上昇局面においても家計を支える重要な要素となります。
ただし、
- 床面積などの要件
- 住宅性能に応じたローン残高の上限
が定められているため、住宅取得時には 事前に要件を確認し、どの程度の減税が受けられるのかを把握しておくことが重要です。
まとめ
金利上昇局面においても、住宅ローン選びの基本は変わりません。
大切なのは金利の先行きを予測することではなく、
金利が上がっても家計が無理なく回り続ける設計になっているか
という視点です。
家計全体と将来のライフイベントを整理したうえで、自分の家庭に合った金利プラン・ローン設計を選ぶことが、後悔しない住宅購入につながります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 金利が上がっているなら、固定金利が絶対に有利ですか?
A. 一概には言えません。固定金利は将来の上昇リスクを回避できますが、その分「将来の上昇」を織り込んだ水準になりやすい傾向があります。大切なのは金利予測ではなく、教育費・定年などのライフイベントに対して家計が耐えられる設計かどうかです。
Q2. 変動金利の「5年ルール」「125%ルール」があれば安心ですか?
A. 急激な返済額上昇を抑える仕組みとして有効ですが、返済額が据え置かれている間に「利息割合が増えて元本が減りにくくなる」可能性があります。ルールがある=リスクゼロではないため、余力資金の確保が前提になります。
Q3. 金利上昇局面では、借入期間は短くした方がいい?長くした方がいい?
A. 「無理のない返済額」が基準です。期間を長くすると利息総額は増えやすい一方、毎月返済額を抑えて余剰資金を確保しやすくなります。余剰資金で生活防衛資金・貯蓄を厚くできると、金利上昇への耐性が上がります。
Q4. ペアローンや連帯債務は金利上昇局面で注意点はありますか?
A. 借入可能額が大きくなり、返済能力を超えた住宅選びになりやすい点が注意です。教育費・老後資金・万一の収入減なども含めて、家計診断で「片方の収入が落ちても回るか」を確認しておくと安心です。
Q5. 住宅ローン減税は金利上昇局面でどんな意味がありますか?
A. 借入初期は元本残高が大きく、返済負担が重い時期です。減税は当初負担の軽減に役立つため、金利上昇局面でも家計を支える要素になります。床面積・性能要件・上限などがあるので、事前確認が重要です。
この記事を書いた人
佐々木 大地(宅地建物取引士・AFP〈日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー〉・住宅ローンアドバイザー)
青森県八戸市を拠点に、不動産売買・相続相談をサポートしています。
宅建士・FP資格を活かし、住宅購入・売却に伴う家計診断やキャッシュフローシミュレーションまでトータルでご提案。
地域密着の視点から、初めての不動産取引でも安心してご相談いただけるパートナーを目指しています。







